第81章 正真
並んで長椅子に座って、隣の薄い肩を抱き寄せる。
夏でも長袖の服を着るのは、冷え性だから……というだけではない筈だ。
俯いたまま、みわは身体を震わせている。
親を亡くす、こと。
正直、オレにはまだ想像もつかない。
父親も母親も殺しても死なないくらいに元気だし、なんだかんだと連絡も来る。
親元離れて生活してるけど、なんつーか、実家はいつもそこにあるっていうか……。
ずっと父親に会いたいと熱望していたみわが、突然突き付けられた現実に順応出来ないのなんか、当たり前だ。
記憶があるかないかなんて関係ない。
自分を産み育ててくれた親が、もうこの世のどこにもいないという事実、そんなにすんなりと受け入れられるわけがない。
……それと同時に、オレが代わりになる、なんて簡単に言えないという事も分かってる。
モチロン気軽になんて言うつもりはこれっぽっちもないけど、そんな単純な話じゃなくて。
惚けたままポロポロと涙をこぼすみわに、なんて言ってあげるのが一番いいのかを、ずっと考えてるけど答えは出ない。
ただここに、隣に居てあげる事しか出来ない。
言葉を交わす事もないまま、暫くの間その場で過ごした。
「……ありがとう、ごめんね。もう、落ち着いたから」
そう言って顔を上げたのは、どれくらい経ってからだったか。
鼻も目も赤い。
とても落ち着いてるようには見えないけど……。
「みわ、無理しなくてもいいんスよ」
「ううん、大丈夫。もう、大丈夫だから。お父さんに会って帰りたい」
その口調は、亡くなったヒトに対するものじゃない。
まるでそこで待ち合わせしてるのではないかと思うほどの。
再び、ふたりで仏壇の前へと向かった。
今度は、肩を抱きながら。