第81章 正真
仏壇……という表現が果たして正しいのかどうかは分からないけれど、グレーがかった白地で、中央に金色の金具の取っ手がついた小さな扉を開けると、そこに現れたのは私の知る限りでは、仏壇だ。
こう、想像していたものとは全く違う……青空の下、石のお墓に書かれている⦅◯◯家之墓⦆……そういうものだと、勝手に思い描いていたんだ。
まさかこんな、室内の冷暖房完備のお墓だなんて。
背面が金色の仏壇の中に……位牌がひとつ。
頭が、またまっしろになった。
「おとう……さん」
お父さん、そう呟いた気がする。
それが音になったかどうかは分からない。
脳みその歯車が止まってしまったみたいに、思考が動かない。
涼太は、仏壇の下部にある引き出しを開けて、お焼香用の香炉を取り出した。
小さなコンセントのような物がついていて、それを引き出しの下に差し込むと、中央のコイルがオレンジに染まり出した。
その様子をぼんやりと見てしまっていたらしく、優しく肩を押されて意識がこちらに戻って来る。
お焼香、しなきゃ。
抹香を摘まんで、香炉へ落として……そこからまた、何も考えられない。
「みわ」
その声に振り返ると、涼太は心配そうな表情で、ハンカチを私の頬に当てた。
……その動きから、頬が涙に濡れている事に初めて気が付いた。
「みわ、ちょっと座ろ」
言葉の意味が理解出来ないまま促されて、少し手前にあった広場の椅子に腰掛けた。
左手がじんじんと痛い。
どうしよう、何も考えられない。
だって、だって、もう会えない、んだ。
お父さん、お父さんに会いたいのに、会えないなんて。
「おとうさん」
忘れてしまって、ごめんなさい。
お父さん、ごめんなさい。
夢の中で会えても、顔が分からなくて。
なんで覚えてないんだろう。
勉強なんてどれだけ出来たって、意味ないじゃないか。
何をしているんだろう。
私は、本当になんで生きているんだろう。
よく分からない事ばかりが頭をぐるぐる回って、眉間がズキズキと痛む。