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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第81章 正真


おばあちゃんから貰った霊園のパンフレットに書いてある住所は、神奈川県鎌倉市のものだった。

母校からさほど遠くない所に、お父さんが眠っていたなんて……。

そのまま現地に向かうのかと思いきや、車は大通りから狭い路地へと入り、あるお店の前で停止した。

「……お花屋さん?」

「ん、行こっか」

天井から床まで、広さはないけれど沢山の色が散らされて華やかな佇まい……お花屋さんだ。
看板を確認するけれど、チェーン店ではなく、恐らく個人経営のお店なんだろう。
店舗は1階部分だけで、2階は住居なのかもしれない。

そうだ、私お墓まいりをするというのに、お花すら買っていなかった。

ダメだ、しっかりしなきゃ。
そう思うのに、なんだかぼんやりとしてばかりいる。

優しい雰囲気の女性店員さんが、私たちに気がついて微笑みながら出て来てくれた。

「いらっしゃいませ」

「すんません、お墓にお供えする花が欲しいんスけど」

「かしこまりました。お好きだったお花でお作りすることもできますよ」

「あ……」

なんにも、知らない……。
私、なんにも知らないんだ。

「えっと、実はあんまり詳しくなくて。優しい感じにしてもらってもいいスか?」

何にも言えないでいる私を気遣って、涼太が店員さんとお話をしてくれた。

「ありがとうございました、お気をつけて」

「どもっス」

黄色、ピンク、白……涼太の手の中には、明るくて優しい色合い。
涼太みたいだ。優しくて、あったかくて、柔らかい。
本当に、至らない自分が嫌になる。

「ごめんなさい、涼太」

「こーら、セリフが違うっスよ」

コツンと人差し指でこづかれた。
そうだ、また口癖のように言ってしまった。

「ありがとう……涼太」

「ん、どういたしまして」

僅かに冷気の残った車内へ戻る。
エンジンのかかる音と同時に、心臓が跳ね上がる。
視線を落とすと、自然と膝の上で握りこぶしを作っていた事に気がつく。
いよいよ……だ。

「みわ」

「はっ、はい!」

いつもと変わらぬ柔らかな旋律に顔を上げると、また彼の唇と私のそれが重なり合った。



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