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【黒バス:R18】解れゆくこころ

第81章 正真


蝉の大合唱が、どんな喧騒よりもはっきりと耳に届く。
次の水曜日、涼太は車で私の家まで迎えに来てくれた。

「おはよ、みわ」

「おはよう。ごめんね、暑いのに遠い所まで」

「車内は快適っスよ〜」

促され、助手席のドアを開けると、冷気が首筋に当たって気持ちいい。

「お邪魔、します。あ……涼しい」

長袖のカーディガンを羽織っていても、涼しく感じる。
涼太……冷えないかな。

「冬が来ると早くあったかくなんないかなって思って、夏が来ると早く涼しくなんねーかなって思うんスよね。もう、冬の寒さ思い出せないスもん」

「ふふ、本当だね」

確かに。
真冬にダウンコートを着込んでもなお寒いと感じる感覚……残念ながら、汗ばむこの時期にはなかなか思い出せない。

人間って、本当に勝手な生き物なんだなぁ。

「んじゃ、行くっスよ」

「うん、お願いします」

車はゆっくりとまた動き出して……呑気な私が気が付いたのは、10分近く走ってからだった。

行き先、ナビに入れてない。

その証拠に、いつも高々と交差点を案内してくれている声がしないもの。
なんで気がつかなかったんだろう。
緊張していたのかな。涼太に会えるから浮かれていたのかな。
どっちも、かな。

「涼太、お墓の場所……」

「今日は平日だから、そんなに道混んでないと思うっスよ」

「あ、うん、そっか」

いつもの明るい声にそう返されて、それ以上言えなくなってしまった。

きっと場所も、おばあちゃんに聞いてくれたんだろう。
涼太はいつも、そういうの抜かりないひとだ。

「涼太、飲み物持ってきたんだけど、飲む?」

「サンキュー、頂くっスわ。コーヒーもらおかな」

何本か買って来たペットボトルや缶の商品名を読み上げると、涼太は微糖の缶コーヒーを選んだ。

小さな缶のプルタブを開けて運転席の彼に渡すと、ぐいとあおって喉を鳴らす。
喉が渇いていたのかな。また、疲れが溜まってるんじゃないかと心配……。


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