第81章 正真
「……っ、っ、う、あ」
喉の奥から漏れ出る嗚咽が、止められない。
高い体温も、微かに香る汗の香りも、優しい声も、全部が私の全部を包み込んで、赦してくれてるみたい。
笑っていて欲しいという彼の前で、泣いてばかりいる。
楽しい事だけあればいいのに。
悲しい事なんて、なくなっちゃえばいいのに。
皆、ずっと笑っていられたらいいのに。
鉛筆でぐちゃぐちゃにしたような黒い線が、頭の中を占めている。
うしろから黄色い光が漏れ出しているのは気が付いているのに、こんがらがったその線が解ける気配はなくて。
背中を優しく撫でられて、時々ぽんぽんと叩かれると、表面張力で溢れ出るのを堪えていた涙達が、正体不明の感情と結託して一斉に流れ出す。
止められない。
「涼、太、ごめんなさい……」
「謝んのはナシっスよ。そだ、謝るなら、今度はその何倍も笑顔を見せてくれればいいっスから」
頭上から降ってくる言葉は、あったかくてあったかくて。
外気温の高さとは裏腹に冷え切った心臓のあたりがほんわりと温かくなって、止まってた心臓が動き出したみたいだ。
「オレはみわの笑ってるカオ、見てるだけで元気になるって、言ってんじゃないスか」
そう言ってくれる涼太を、いつも裏切ってるんだ。
どうしても頷けなくて、その胸にさらに深く顔をうずめた。
「……でもそうじゃない時まで無理して笑って欲しくないんスよ。素のまんまでいいの、みわは」
私はそれで何も言えなくなってしまって、ただただ感情の奔流に呑まれてひとしきり泣き続けた。
中天の太陽が無遠慮に肌を焦がし始めるまで散々泣いて……波が引き始めると、涼太は触れるだけの優しいキスをたくさんくれた。