第81章 正真
「……そっか……おばあちゃんから、電話で……?」
きっと、その話を聞いてこうやって来てくれたに違いない。
「いや、電話じゃなくて、直接」
「えっ」
直接?
つまり……おばあちゃんに、会いに来た、って事だよね。
涼太はいつも予定を私に教えてくれるけれど……ここ最近、ここまで来れる余裕があった日が見当たらない。
また、無理を押して来てくれたんだろうか。
「あ、ゴメンゴメン。心配しなくていいんスよ。聞いたのは……もっとずっと、前……なんスわ」
バツの悪そうな表情で視線を落とす姿は、彼らしくなくて。
ずっと……前。
「どれくらい……?」
「んー、あれは……いつだったか……まだ高校何年かって時」
「えっ」
まさかの言葉に、二度驚いた。
高校生の時?
少なくとも3年以上は前、という事だろうか。
「オレね……そん時、メチャクチャショックで。みわに話した方がいいのか、でもみわが傷付く事はしたくねーって、なんか混乱しまくって、みわのコト犯すみたいにしちゃったんスよね」
少し早口になっているその表情から窺われるのは、後悔だ。
あった。そういう事……あった。
確か涼太が大雨の中、傘も差さずに帰って来て……避妊をせずに、途中までした時だ。
いつだったか、時期は私もはっきりとは覚えてないけれど、涼太の表情は覚えてる。
やり場の無い、というか、解消できない鬱屈を溜め込んでいるような、そんな顔。
あれは、私のせいだったんだ。
「みわ……ごめん。ずっと黙ってて、ごめん」
涼太は、私の手を握って、深々と頭を下げた。
「……顔を上げて」
再び視界に入って来たその表情は、あの時と同じもの。
「涼太……ずっと、嫌な思いをさせて、ごめんなさい」
ずっと、重い荷物を背負いながら、一緒に歩いてくれていたんだ。