第81章 正真
「……あの……」
やっぱり、最初から順序立てて話した方が、涼太も分かりやすいよね。
亡くなってた、なんていきなり言われたって、反応に困るかもしれない。
「おばあちゃんにね、聞いたんだけれど」
「いいっスよ、無理に言わなくて」
あまりに優しすぎる声に、思わず彼の方に向き直った。
このひとは、いくつの声音を持っているんだろう。
表情も、声色も。
万華鏡のように、どの面もきらきら輝いて。
また、気を遣わせてしまっているんだ。
毎度毎度、優しいこのひとに。
変な誤解だけは、与えたくない。
「無理してないの、ちょっとびっくりして、うまく言えなくて」
言葉を頭の中で練っているうちに、車はゆっくりと停止した。
ふと気がつくと、目の前には見慣れた景色。
海だ。
幾度となく涼太と、海常のメンバーと訪れた海。
あの道を真っ直ぐに行くと、大好きな母校。
卒業してまだ何年も経っていないのに、なんだか凄く懐かしい気持ちになるのは何故なんだろう。
「みわ、降りよっか」
「うん」
太陽から降り注がれる熱光線が、海水と調和して和らいでいる気がしたけれど、熱砂がその勘違いを指摘してくれる。
目線の遥か前には、浮き輪を使って遊んでいる男女。笑顔が太陽みたいに眩しい。
思えば、涼太と海で泳いだ事はないな……人前で水着姿になるのを躊躇う私の気持ちを汲んでくれてのことだ。
そうして、いつも気を遣わせてしまっているのは、分かっているのに。
「ちょっとここ、座ろ」
涼太は、岩場の陰の直射日光が当たらない場所で腰を下ろした。
私もそれにならって、隣に座る。
人々の笑い声よりも大きく聞こえるのは、波が寄せる優しい音。
なんだか、喋りやすくなった気がする。
ちゃんとお話をしようと思ったのに……先に口を開いたのは、涼太だった。
「ごめんね、みわ。オレ、聞いたんスわ、みわのお父さんのコト」