第81章 正真
こんなに、お父さんに会いたくなったのはいつからだったか。
ここ最近は、それこそ恋い焦がれると表現してもおかしくない状態だったかもしれない。
まだ見ぬ家族というものに憧れて、お父さんに会えば、何故かそれが手に入るものだと勘違いしていた。
でも、お父さんに会える事はもうないんだ。
目の前の道が、突然塞がれてしまったような気持ち。
家族って、なんなんだろう。
大切に育ててくれたおばあちゃんに、あんな風に気を遣わせてまで知る必要があったのかな……。
お父さん、お母さん、そして……お姉さん?
なんだかどれも、ピンとこない。
皆が知ってる当たり前を、私は知らないのかな。
……当たり前はひとそれぞれ、おばあちゃんの言葉が慰めてくれてるみたいだ。
息が少し、苦しい。
頭がツキンと痛む。
外が暑いからだろうか。きっとそうだ。
お散歩しよう。
足を前に出して。はい右、左……。
意識しているのに、景色が動かない。
どうしちゃったんだろう。足が、動かない。
身体も、脳みそも動かなくなってしまった。
動いているのは、こころだけだ。
そうか、こころに動力源を持って行かれてしまって、他の機能が全て停止してしまったんだよ、きっと。
……私、頭大丈夫かな。
自分で心配になる思考だ。
車のエンジン音がする。
幸いにも私がいるのは道路の端だ。
自分が今どんな表情をしているのかが分からなくて、俯いたままやり過ごしてしまおうと、ぼんやりと電柱の根元に生えている草に目をやっていたら……エンジン音は真隣で止まった。
私の立っている位置が邪魔だったのかと、ふと我に返って顔を上げた。
……ここは砂漠だったんだろうか。
目の前に見えているのは蜃気楼なのかもしれない。
「そこの可愛いおねーさん、ちょっとドライブ行かないっスか?」
だって、ここにいるはずがないもの。