第81章 正真
頭の中で、変換機能がフル稼働している。
今この流れで、なくなっている、という言葉に該当する漢字は……。
「……そ」
その一文字だけやっと絞り出して、次が出てこない。
目の前が、漂白してしまったみたいに白い。
「みわ、ごめんなさい。もっと早いタイミングで話してあげるべきだったのかもしれない。今まで黙っていて、ごめんなさい」
おばあちゃんは悪くない。
きっと、言いづらかっただろう。
だからこそ、成人したらと気持ちの区切りを付けていたんだと思う。
でも、突然前に現れた事実に、脳がついていかない。
「……亡くなった、って、いつ、どうして」
顔を上げられないまま、口から出た言葉は呆れるくらい小さくて、掠れてた。
「……亡くなったのは、あなたが小学生の時。事故だった、と聞いているわ」
「事故……」
お父さんが、いない?
頭の中でたくさん描いていた父親との再会が、ガラガラと音を立てて崩れて行く気がする。
元々、ずっと会ってなかったじゃない。
こんなに、ショックを受けることないじゃない。
「みわ、受け止められるようになるには、時間が必要だと思うわ。だからそれまで、辛い気持ちを閉じ込めないで」
「大丈夫……ちょっと、驚いただけ。話してくれてありがとう、おばあちゃん」
「みわ」
「ちょっと、お散歩してくるね」
笑えたかな。
今ちゃんと、笑えてたよね。
足早に廊下を抜けて、スニーカーに足を突っ込むと、何も考えずに外に出た。
お父さんは、この世に……いない?
もう、会えない?
今日は雲が厚い。
明けきらない梅雨空が、いつ雨を降らせてやろうかと、待ち構えてるみたいだ。
目頭が、何故かとっても熱い。