第80章 進展
「なにも、そんなに怒らなくてもいいじゃないスか……」
怒ったり泣いたり、まるで子どもみたいだ。
みわがこんな風に感情をさらけ出してくれることって、実はそんなに多くない。
本当なら、普通"家族"に向けられる本音とかワガママとか、そういうのを出せずに来たみわだから、なんだろうか。
とりあえずみわの意見を取り入れて、お湯で流した。
もうこれでご納得頂けたかと思いきや、そうでもないみたいだ。
「……っ、私、上がるね」
俯いて耳まで真っ赤にしたみわは、オレの方をチラリとも見ずに、脱衣所へと出て行こうとする。
「みわ待って、オレひとりにしないで欲しいんスけど!」
追いかけて浴室から出たオレは、タオルで身体を拭おうとする細い腕を、ぎゅっと掴んだ。
みわは、俯いたままだ。
「……涼太、はなして」
「何をそんなに気にしてるんスか? そんなに怒んないで」
女のコの扱いなんて慣れてるハズなのに、こんなに慌ててる自分に、自分で笑えてくる。
みわの涙に弱い。
気持ち良すぎて泣いちゃうのは大歓迎っスけど、そうじゃないのはイヤだ。
泣いて欲しくない。
笑ってて欲しい。
オマエのせいで泣いてんだろーが! と、脳内でまたシバかれた。
「ね、みわ」
みわがこんなにも長い時間怒ってるのって、本当に珍しいから。
「どうし……」
なんとか宥めようと差し出した手に、また大粒の涙が落ちて来た。
……これ、ヤバいか。
相当怒ってるか。
別れ話……なんて、なんないっスよね?
自分でも分かるくらいに手が強張ったけど、一瞬動きを止めたそれを奮い立たせて動かし、細い両肩を痛くならないように掴んだ。
「……みわ」
「ごめんなさい……涼太、あんな、みっともない所、見せて」
「へ」
「嫌いに……なっちゃう、よね」
以前どこかで聞いたようなセリフ。
自分の頭の上にハテナマークが飛びまくるのが分かる。