第80章 進展
「いっつも、気持ち良いっスよ。みわとすんの、すげー気持ち良い」
「私もだよ、涼太とするの、すっごく気持ち良いよ」
なんでだろう……こんな事言うの、すっごい恥ずかしいけど……でも今は、この気持ちを真っ直ぐに届けなきゃだめな気がして。
「良かった、安心したっスわ。みわを気持ち良くさせてあげなきゃ、意味ないし」
涼太はさらっとそう言ったけれど、なんだかそれが彼を縛る呪いみたいに感じる。
「そんな事、ないよ……なんか上手く言えないけれど、そんな事ないよ」
気持ち良くさせてあげなきゃ、って一見良い言葉のように聞こえるけれど、なんか違う。
そんな風に負担に思ってしまうのは、絶対良くないもの。
「涼太、そんな事言わないで。意味ないとか、そんな事ないよ。だって、ふたりですることだもん。コミュニケーション、だよね?」
涼太は少し驚いたように目を丸くした。
私、そんなに変な事言った……かな?
「あー、なんかオレの言い方、悪いっスよね。違うんスよ、重荷だとかそういうんじゃなくて、なんとなく……自然にそう、思っちゃうっつーか」
わしゃわしゃと手で乱した髪は、もういつもの色。
「別に過去のオンナを思い出してるとかじゃないんスよ。ただ、性欲処理でしかなかったセックスはもう思い出したくねーし、二度としたくねーんスわ」
申し訳なさそうに涼太はそう笑うけれど、その笑顔の裏側にある感情が、見え隠れしている気がして。
過去の経験でついた傷は、そう簡単に癒えるようなものじゃない。
治療法を間違えると、治るどころか化膿してしまう。
そこからまた雑菌が入って、どんどん症状が悪化してしまうものだから。
治す、なんて偉そうな事は言えない。
でもせめて、悪くならないように。
私の出来る限りで、包みたいと思う。