第80章 進展
静かな浴室……適温を保っているはずの湯船が、すこしぬるくなってしまったかのように感じる。
きっと、体温が上がってるから……なのかな。
キスが、気持ちいい。
ただ抱き合って、言葉もなく交わす口づけが、こんなにも特別だなんて。
「みわ……」
私の名前を呼んでくれる口から出た言葉、一生忘れない。
これからも、一緒に居て欲しいって。
だめ、頭に思い浮かべただけで涙が……。
「あっ、の、悲しくて泣いてるんじゃないの、あの、ごめんなさい」
「いいって、分かってるっスよ」
濡れた手が、頬を撫でる。
またゆっくり、唇が重なる。
「……普段、不安になったりとか……全くしないって言ったらウソになるっスけど、考えないようにしてんスよね」
近くに居ても、不安になる事っていっぱいある。
こうやって、物理的な距離があれば尚更。
会いたい時に会えない、というのがこんなに辛いなんて。
「こうやって隣に居れば、なんの心配もないんスけど。そうはいかないし」
そう、そうはいかないの、ちゃんと分かってる。
自分が今やりたい事と、やらなきゃならない事。
涼太だってそうだ。頑張ってる涼太を応援したい。
「私、目標に向かってる涼太が好き……だから」
「そのセリフ、そのまんま返すっスわ」
下から覗き込むようにされて、微笑みあってまた……キス。
ふわふわ、夢心地。
「……みわってさ、シたくなったりしないんスか?」
「ほ?」
「オレ、今すっげーシたいんスけど」
ふわふわしていた風船のような気持ちが、ぱちんと弾けた。
顔に熱が集まるのが分かる。
「えっ、と」
「疲れてる? あんまムリはさせたくないし」
涼太は、時々ストレートすぎて、返答に困る。
元々自分の気持ちを伝えるのが得意でない私が、涼太に不快な思いをさせない為には、なんて言えばいいのか。
この、熱を帯びていく身体をどう表現したら伝わるの。