第80章 進展
「あの、悪い意味じゃないんだよ。なんかうまく言えないんだけど」
「いや、悪い意味だなんて思ってないんスけど……」
うう、言葉の選び方を完全に間違えた……。
よりにもよってこんな日に、なんて言い方しちゃったんだろう。
「……普通の」
「えっ?」
「普通のカップルとは違うよね、って言われたんスよ、仕事で会ったヒトにさ」
涼太は、ぽつんと水面に言葉を落とすかのように、呟いた。
儚くて、そのまま水に溶けてしまいそうな。
この様子だけで、涼太は気付いていないかもしれないけれど、その言葉に傷ついたんだということが分かる。
「普通の……」
普通、ってなんだろう。
自分の思う【普通】が、他の人から見ても【普通】なのかどうかって、どうやったら分かるんだろう。
【普通】って、簡単なように見えて、言葉だけじゃ絶対に分からない。
そして、言葉って簡単にひとを傷つけていく。
「みわは、多分同じ大学のオトコとかと付き合った方が、なんか色々ラクだったりすると思うんスよね」
涼太が、目を合わせない。
こんな事、滅多にない。
「スポーツ選手とか、モデルとかそういうんじゃなくて、一般人っていうの? 本当に普通の。いつでもみわの隣に居てあげられて、いつでもみわを支えてあげられる、そんなオトコ」
「涼太……私、涼太にいつも支えられているよ。実際に隣に居なくても、涼太の存在はいつも隣に寄り添っていてくれてるよ」
「実際に隣に居られないって事が、どれだけ寂しいかよく知ってるっスよね? オレはそんな思いをみわにさせたいんじゃない」
寂しい……うん、そうだよね。
寂しいよね。
いつでもこうやって隣に居て、お喋りして、触れ合っていたい。
そんな欲がないとは言えない。
でも……なんていうか、やっぱり上手く言えない……。
どうやったら、上手く伝えられるのかな。