第80章 進展
「……距離?」
「そ。距離。……オレたち今、何かと距離があるっスよね」
「えっと……住んでいる所が遠かったり、お互いに忙しくて?」
涼太はこくりと頷いて、私のすぐ隣に移動してきた。
「それに、みわはこういう祝い方とか、好きじゃないのも知ってるっスけど……オレはやっぱり、大切なヒトのめでたい日は盛大に祝いたい」
盛大……そう、本当にいつも、盛大にお祝いして貰っちゃって、申し訳なさしかない。
「でもそうすることで、オレのコト遠い存在とか思わないかなって、時々心配になるんスよ」
……あれ……?
「……こう言うと怒るかも……あの、基本的に、涼太は遠い存在だなぁなんて思ったり……してるんだけど……」
「へ!?」
涼太が驚いて上半身を垂直に起こした途端、ぱしゃりと跳ねた水滴とともに、花びらが彼の頬に張りついた。
「みわ、マジで言ってる?」
「え……うん」
……私、そんなに変な事、言った?
だって、涼太はスーパースターだもの。
なんていうか上手く説明出来ないけれど、他に代わりがいない人間だ。
私みたいに、誰でも代わりがきくような人間ではない。
そういう面では、やっぱり遠い存在だと思っているんだけれど……やっぱり上手く言えそうにない。
「みわは、オレの恋人なのに?」
「こい、びと」
……改めて口にすると、すごい単語だ。
私が、涼太の、恋人……
「ちょっと、そこで黙んないでくんないっスか! こんなにラブラブなのに!」
「ご、ごめんなさい、ちょっと恥ずかしくてこの流れに耐えられそうにないです」
「何! なんで!? もう付き合って何年経ってると思ってんスか!」
何年……って……高校1年生の時に出逢って、今大学2年生だから……わ、すごい。
「分かった。みわとはだいぶ認識が違うってことがよっく分かったっスわ」
涼太は、がしがしと髪を乱した。
彼の表情とは裏腹に、髪から撥ねた水滴が楽しそうにきらきらと輝いた。