第80章 進展
ふたりの呼吸音だけがあたりを取り巻く。
浴室内の独特な響き方……なんだか、反響した音を誰かに聞かれているような気がして堪らなく恥ずかしいのは、気のせいなんだろうか。
キスしながら、抱き合って……ただそれだけなのに、なんかもう限界だ。
恥ずかしくて、嬉しくて、気持ち良くて、恥ずかしくて。
あれこれ考えすぎて、突然どかーんって爆発するかもしれない。
「みわ……」
「ん……」
ぺろりと耳朶を舌で弄ばれて、腰が浮く。
勿論、密着している涼太には、挙動を全部把握されていて。
広い肩幅、引き締まった身体……だめだめ、具体的に表現しちゃだめだ。
ちょっとやっぱり今はテンションがおかしい。
リセットしなきゃいけない気がする。
「あの、あの、涼太さん、ちょっとここ、冷えませんか」
物凄く自然に、道行くおばさま方の会話を意識したつもりなのに、結果は涼太が吹き出すほど滑稽なものになった。
「涼太さん、ってなんか若奥様みたいでいいっスね。冷える? 風呂はいろっか」
「う、うん」
冷える、なんて嘘なんだけど。
涼太はいつも体温が高いから、触れ合ってるだけでぽかぽかする。
……ぽかぽかだけじゃなくて、火が付いたように熱くなってしまう事も多々ある。
さっきまで、まさにそうだった。
「そこ、段になってるから滑らないように気を付けるんスよ」
手と腰を支えられながら、赤い花びらの浮く湯船に足をつける。
熱すぎもせず、温くもなく、快適な温度。
花びらは、薔薇のようだ。
「ふあー、極楽っスねえ」
両肩を浴槽の淵に引っ掛けて入浴する姿は、まるでドラマかCMのワンシーンのよう。
こんな薔薇風呂が似合うひと、そうそういない。
分不相応な状況に、思わず膝を抱えてしまった。
「……みわはさあ」
「う、ん?」
「オレと距離を感じたりする?」
その問いは、突然で。