第80章 進展
シャンプーの泡は摩擦を軽減する為だから、先に泡立てないと意味がない……とか、この後の手順諸々を考えながら手を動かす。
そっと触れた髪は、相変わらず柔らかくて繊細で綺麗で、上質な絹糸みたい。
頭皮をマッサージしながら洗っていると、涼太は気持ち良さそうに目を閉じた。
「……けじめだし、染めた方がいいかも、って思ったんスよ」
「……え……?」
ぽつりとそう呟いた涼太の言葉の意味が、理解出来なくて。
「やっぱこの髪だと、チャラいとか見られるコト多いし……オレこんないい加減だしさ、せめて見た目だけでもとか」
さっきのお話の続きだということは分かる。
彼が言っていた"みっともない展開"の事だということも。
でも、話の中身が入ってこない。
けじめ……って、どういう事?
「そんで、黒髪にするつもりだったんスけど……そん時、笠松センパイに言われたんスよ。染めたからってお前がなんか変わるのか、お前がお前のままでいなかったら意味ねーだろって」
「うん……涼太は涼太のままでいい、ううん、涼太のままがいいよ」
背景は分からないけれど、これだけははっきり言える。
黄瀬涼太はそのままの黄瀬涼太で居て欲しいって。
「……アリガト。なんか、ちょっと迷走しかけてたっていうか……目的と手段が入れ替わっちゃったんスよね、慣れない考えごとなんかするから」
「悩んで……たんだね」
涼太は感覚派でありながら、鋭い観察眼で沢山のことを察知する事が出来る。
それは彼の長所でありつつも、時々こうして自分自身の首を締めてしまうんだろう。
「にしてもやっぱり……みわは相変わらず、オレが何言ってんのか分かってないってカンジっスね」
「……ごめん、なさい。何のけじめなのか、教えてくれる?」
「いいんスよ、前からこの話だけは通じないの、分かってるっスから。みわにはちゃんとその時になったら正面から言わないと分かってもらえないの、分かってるっス」
……情けない。
涼太はこの話題、きっと口に出したくなくて、それこそ察知して欲しいんだろう。
全然理解してあげられない自分に、反省だ……帰ったらちゃんと、ゆっくり考えてみよう。