第80章 進展
この感触……ウィッグ……なんだよね?
自分では付けたことがないから、どういうものなのか分からない。
ちょっと触れるだけのつもりが、生え際を見てみたくなってしまって。
そっとおでこに手を当てると、聞こえていたいびきがピタリと止まった。
「ん……みわ……?」
「っ!」
まさかの反応に、急いで手を引っ込めた。
ぐっすり眠っているようだったから、少し髪を触るくらい大丈夫かと思った私が甘かった。
ごめんなさい、そう言おうとしたら……涼太はまた寝息を立て始めた。
び、び、びっくりした……寝言、だったのかな。
何故か酷い罪悪感を抱きながら、心臓がバクバクしてる。
これ以上余計な事はするまいと、逃げるように脱衣所へと飛び込んだ。
これまた、脱衣所はとても豪華で広い。
大理石……に見えるけれど、本物なのかな……。
水道の脇に置いてあるアメニティグッズは、私でも分かる有名ブランドの物。
お風呂上がりにきちんとお手入れしようとこころに決めて、バスルームへのドアを開けた。
「……わ」
広い広いバスルーム。
タイルは濃いブラウン系の色で統一されていて、高級感がある。
奥にはドドンと大きな浴槽。
丸い形のそれには既に湯が張ってあり、赤い花びらが無数に散っていて……更に、浴槽の真横の壁は一面が窓で、ガラスの向こう側には東京の夜景が広がっている。
まるで、映画の中の世界だ。
いつも気にすると涼太に怒られてしまうけれど、本当にいくらかかっているんだろう。
シャワーを浴びて、ささっと出よう。
不思議と冷たさを感じない浴室のタイルに足を踏み出して、後ろ手に浴室のドアを閉めた。
……と思ったけれど、何かに突っかかって、ドアが閉まらない。
何かを挟んでしまったかもしれないと振り返ると、視界を占領したのは、透き通るような肌と艶めく黒髪。
「なーに、してんスか?」
その瞳は、蜘蛛の巣にかかった獲物を見定めるかの如く。