第80章 進展
「あー……この瞬間、いいっスよね……」
「……この、瞬間?」
「このさー……眠いーって思って、眠りに落ちる瞬間って言うの? なんか……きもち、よくないスか」
「あ……うん……わかる、かも」
もう、目が開かない。
涼太も、喋り方がゆっくりになってきてる。
そう思ったら、次の瞬間には寝息が聞こえてきて……気がつけば私も、意識を沈めて居た。
夢を、見た気がする。
川辺で、誰かと水をかけあって、小さなお花を指差して綺麗だねって笑って。
なんだか、とっても幸せな夢だった……。
重い瞼を頑張って持ち上げると、視界に現れたのはクリーム色の天井。
ホテルに泊まっていたことを瞬時に思い出して、身体を起こした。
「……けほ」
口を開けて寝ていたのか、喉が渇いて痛い。
隣の涼太は、珍しくいびきをかいて寝ている。
……お酒、飲んだからかな?
それとも、疲れてるのかな……。
彼のスケジュールで、これだけの時間を取ることがどれほど困難か、よく分かってる。
よく分かっているくせにこうして会ってしまうのは、私が甘えている証拠だ。
本来なら、彼の事を考えて、会う時間を減らさなければならないのに。
まだ、覚悟が足りないんだ……。
ベッドから出ようとして、何も身につけていない事を思い出す。
見渡すと、衣服はあちこちに散乱していて、この怠い身体ではとても回収する気になれなかった。
……涼太の眠りが深い事を確認して、意を決して裸のままベッドを抜け、机の上のコップに入っていたお水で喉を潤して、バスルームに向かう。
涼太、まだ目が覚めないだろうし、先にシャワーを浴びてしまおう。
そうしたらバスローブを着ればいいし、丁度いいよね。
そうだ、スマートフォン、ちゃんとマナーモードにしていたっけ。
うっかり鳴ったりしたら、涼太を起こしてしまう。
バッグの中のスマートフォンを確認して、念のためバスルームに戻る前に、涼太の様子を再度うかがっておく。
……結局黒髪のまま寝てしまっているけれど、これ、外さないのかな……?
ほんの出来心で、サラリとした黒髪のウィッグに触れた。