第80章 進展
涼太は軽く息をついて、また喉を水で潤した。
「ごめんね……私本当に知らない事ばっかりで、恥ずかしいよね」
彼は優しいから口にはしないけど、きっとこんな私が彼女なんて、相当恥ずかしい筈だ。
おしゃれの事なんて勉強しても勉強しても分からないことばかりだし、こうして涼太の手間ばかり取らせて。
「みわ?」
「……はい」
まるで子どもをあやすお母さんのような優しい口調に、ますます申し訳ない気持ちが募る。
また、気を遣わせてばかり……。
「みわの考えてるコトはなんとなく分かるんスけど……みわ、オレが勉強苦手なの、恥ずかしいっスか?」
?
突然の質問に、クエスチョンマークが脳裏を飛び交う。
恥ずかしいって、そんなの思った事もなかった。
「……恥ずかしくなんかないけれど……どうして?」
「恥ずかしくないって、それはなんで?」
慌ててまた、次の答えのピースをはめる。
またなんか、見当違いの事を言ってしまった?
「え……だって、ひとには得手不得手があるから……得意な事もあれば、不得意な事もある、よね?」
「うん、オレもそう思う」
トントン、と綺麗な指が私の鎖骨をノックした。
「ついでに言うとね、みわの疎いコトはオレが詳しくて、オレが疎いコトはみわが詳しいっての、多いじゃないスか」
「うん」
確かに、多いかも。
ふたりとも詳しい、って事はあんまりないかもしれない。
「それってね、スゴいコトだと思うんスよ。だって、教え合えばどっちも分かるようになるんスから」
……私はそれを、いけない事だと思ってた。
「オレがダメなものは、みわに助けて貰う。みわがダメなものは、オレが助ける。それが出来るのって、大切なコトだと思うんス」
……涼太に相応しい人間になるためには、こんなんじゃダメだと思うばかりだった。
「オレはこれからもみわに色んなコト教えて貰いたいし、みわに色んなコト教えたい。なんかモンクあるっスか?」
「……ない、です」
「じゃあ解決っスね」
どうしてこのひとはこんなに、広いんだろう。