第80章 進展
冷たい水が、彼の唇から送り込まれてくる。
喉は潤って来ている筈なのに何故か渇きを覚えて、身体は更に水を欲しがってしまう。
……欲しいのは水?
それとも、キス?
「ど?」
どことなく嬉しそうにそう問う瞳は、もういつもの涼太だ。
ちょっとからかうような、いたずらっ子の顔。
「……もっと、欲しいな……」
素直にそう言っただけなのに、涼太は少し驚いた表情を浮かべて……と思ったのも束の間、彼は瞳を緩めると、再び水を口に含んで、唇を合わせてきた。
冷たい水とともに、彼の体液が身体中に沁み渡っていく気がして、邪な欲に支配されていく。
「……ん、く」
「っは……みわは、自覚なく煽ってくんのが困るんスけど」
「そんな……の」
してない、と言い切れるのかな。
身体の中に渦巻く欲望には見ないふりをしようと、吹き飛んでしまった理性をなんとか手繰り寄せようとしても、うまくいかない。
起き上がろうとしたのに、腕に力が入らない。
「ははっ、そんなフラフラで大丈夫っスか? ほら、も少し横になって」
「う、ん……」
ベッドのスプリングの感覚が、泊まった事のあるホテルや病院なんかとは全く違う。
シーツの触り心地でも分かる、高級さ。
油断したら眠ってしまいそうなほどに、心地良い。
「……そだ、先に渡しとこ」
だから、涼太が言った意味が分からなくて、暫く天井や壁を見つめながらぼんやりしていた。
涼太は、上半身を乗り出して、ベッドの脇にあるらしい何かをごそごそと探っている。
……綺麗な、背筋だなぁ……。
「みわ、お誕生日おめでと」
そっと渡されたのは、紙袋……中には、大きな布製の巾着? のような袋が入っている。
これ、プレゼント……。
「しんどかったら、別に今開けなくていいんスよ」
「ううん、嬉しいの……ありがとう……こんな、貰ってばっかりなのに、いいのかな」
なーに言ってんスか、と笑うその姿が、泣きたくなるほどに眩しくて。