第80章 進展
「へえ、黄瀬君って彼女いるんだ!」
「んーまあ」
先日、とあるスポーツ雑誌の特集で撮影があった時に、気が合う感じのヘアメイクさんとだいぶ盛り上がって、色んな話をした。
あきサンを柔らかくしたカンジのヒトだ。
……あきサンに聞かれたらぶっ飛ばされそう。
「なんか意外かも。黄瀬君ってもっと、オープンに言いそうだから」
「そうっスか? あえて大きな声で言うモンでもないかと思って」
……何故だかあんまり、言いたくない。
「これだけ有名人だと、彼女大変そうだね」
「……そうっスね、外出るのも気ィ使うし、あんま会えないし、我慢させてると思うんス」
「そうだよね、ちょっと普通のカップルとは違うよね」
普通のカップルとは、違う。
分かってはいるコトなのに、なんでこんなに胸がざわつくんだろう。
女性にしては長身で、スラリとした後ろ姿を思い出す。
細くて薄い身体は、沢山のものを抱えてる。
ただでさえ困難が多い人生の彼女に、更に負担を背負わせてやしないだろうか。
「なんか、黄瀬君と付き合ってたら、周りの子にヤキモチ妬いちゃいそう。独占したいのに、出来ないって」
他の男の方が、みわを幸せにしてあげられるんじゃないか。
みわは、その方がラクなんじゃないか。
……いや、違う。
みわを幸せにするのは、オレだ。
みわを笑顔にするのは、オレだ。
本当に独占したいのは……
「いやー……独占したいしたいって思ってるのは、どっちかというとオレの方かもしんないっス」
「黄瀬君が? 更に意外。もしかして彼女も有名人なの?」
「いや、そうじゃないんス、一般人……なんか、自分でもおかしいと思うんスけど、独り占めしたくなっちゃうんスよね、ムショーに」
「へー、一見アッサリ博愛主義って感じなのに、独占欲が強いんだね」
はは、と笑って返したものの、鏡に映った自分はあんまり笑えてない。
みわへの独占欲……自分でも制御出来ない欲のうちのひとつだから。
「そんな黄瀬君に、彼女を独占出来る一番の方法を教えてしんぜよう!」
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「……一番の、方法?」