第80章 進展
「……涼太、今の」
どういう、意味?
何が一緒だって言ってた?
あまりに突然の言葉で、すんなり入って来なかったんだけれど……。
カケイ、家計って言った……?
また、一緒に暮らせる日がくればいいなって、そういうこと……?
「みわ、座ってくれるっスか」
「あ、う、うん」
促されて座ると、目線が涼太と近くなる。
間接照明だけの部屋は普段よりも薄暗いはずなのに、彼はいつでもキラキラしていて。
なんだかいっつも余裕で、大人で……その背中には全く追いつけそうにない。
「あのさ」
「うん」
「……」
呼びかけておいて、次の句を継がぬままに涼太は俯き、黒髪をくしゃくしゃにした。
そして、たっぷり数十秒の沈黙。
ううん、もっと長かったかも。
「……も」
「も?」
「……桃っち、と、連絡取ってるんスか」
「さつきちゃん? うん、時々メールするくらいだけど、取ってるよ」
さつきちゃん……桃井さつきは、青峰さんについて行くと言って、なんだかんだ現在もアメリカ暮らしだ。
さつきちゃんが、どうかしたのかな?
涼太にしては、なんというか、歯切れが悪いというか……。
「……涼太?」
「……」
「?」
また、言い淀んでしまった。
何か、悩みごと?
「オレ、まだなんにもないっスけど」
……え?
「まだ全然踏み出せてないっスけど、ちゃんと、未来を約束出来るくらいの人間になるから」
真剣な瞳に、吸い込まれる。
このひとの引力には、誰も敵わないんじゃないか。
なんにもない、ってそれは私の台詞だ。
「待ってて欲しいんス。待たせてばっかりで、ごめん」
待つ……?
私は涼太に何か待たされていたっけ?
むしろ、逆だ。
「私……待たされてなんていないよ。涼太に、待って貰ってるんだよ」
私が、成長しないと。
私が、前に進まないと。
前を行く涼太に追い付けなくなる前に。
「いや……そうじゃないんスよ」
「そうじゃ、ない?」
「……親父さんに挨拶済ませてからにするっスわ……」
お父さんに?
……変な涼太、どうしたんだろう。