第80章 進展
ロビーは閑散としていた。
平日のこの時間、あまりお客さんはいないのかな……?
涼太がファンのひとに見つかる可能性も減って、少し安心。
例え黒髪でも、眼鏡をしていても、鍛えられた体躯にすらりと伸びた足、小さな顔……何より、オーラ。
見るひとが見れば、恐らくすぐに気が付いてしまうだろう。
プラネタリウムから出ても、誰かに見つからないかと心配になったけれど、繋いだ手が離されることはなくて。
涼太は空を仰いで、ぽつりと呟いた。
「やっぱり、ここじゃ星は見えないっスね。折角晴れたのに」
「……そうだね……」
周りを取り囲む人工的な光の影響か、空には殆ど星が無いように見える。
把握できるのは、一際輝きが強い星だけだ。
「みわ、楽しめたっスか?」
「うん、あんな素敵なシートで……嬉しかった。あとね、なんだろう、前に見た時とは、なんとなく違う気持ちっていうか……」
「あ、それオレも分かるっスわ。なんスかね、なんかちょっと違うっていうか」
「そう、うまく説明出来なくて……」
「分かる分かる、なんかうまく言えないんスよね」
「……ふふ」
「ぷっ」
ふたりとも上手く言えなくて、でもきっと言いたいことは分かってて……思わず目を合わせて笑い合った。
プラネタリウムのある建物から出ると、街はすっかり表情を変えていた。
あちこちに、酔っているひとたちの姿。
若いひともサラリーマンも、それぞれ皆何かを求めてお酒を飲んでいるのかな。
酔っ払いに、スーツ姿の男性。
大きな声で話しながら闊歩する男性の集団。
……夜の街は、苦手。
重なった手が少し汗ばんでしまっているの、気付かれているかな。
「みわ、ホテル行こっか」
「……え、っ」
優しく掛けられた問いは、今の状況を悟ってのものかもしれないんだけれど……あまりに妖艶で、咄嗟に言葉が出て来ない。
ようやくなんとか頷いて、ふたりはまた、ゆっくりと歩き出した。