第80章 進展
「みわが……他のオトコにメシ作ってんのかと思うとなんか……」
「つ、作ってないってば!」
涼太が気にするポイントがいまいち分かってない。
……やきもちを妬いちゃう、ってこと?
「いや、分かってんスよ、もしそうでもオレにどうこう言う権利なんかないって」
「権利とかじゃ……ないのに」
「みわは、優しいっスね」
フッと零した笑みは、いつものような優しく柔らかいものじゃなくて、儚くて、ぽきりと折れてしまいそうな繊細さ。
……これだ、時折顔を覗かせる、彼の孤独。
踏み込んでいいのか退くべきなのか、測りかねてる感じ。
「本当だよ……権利とかじゃないもん。涼太になら何聞かれても、何言われても困らないもん……」
あれ……私も……酔ってるのかな。
目の辺りがあったかくて、ちょっとぽやんとしてるかも。
涼太は少し驚いたような表情を浮かべて、また髪をくしゃりとした。
なんだろう……悩んでいるのは分かるけれど……なんかこう、ギュッてしたくなる、さっきからなんだろうこの気持ち。
「……それ、本当の髪、みたいだね」
説明出来ない感情が気持ち悪くて、なんとか少しだけ話題を逸らせたくて、目についた事を話題にしたんだけれど……ちょっと、これは自爆だろうか。
「わざと触れないようにしてんのかと思ったっスわ。似合わない?」
やっぱり黒髪涼太はいつも以上に直視出来なくて、敢えて話題にするのを避けていたのに……
「あの、ううん、自然すぎて、自然すぎて不自然」
「ぷ、なんスかそれ」
「うう、もう自分でも何言ってるのかちょっとよく分からないの……」
カウンター席で良かったかもしれない。
あの真っ直ぐな瞳に見つめられると、訳が分からなくなっちゃうから。
「……オレの方が余裕ねーっスね……カッコわる」
「え?」
目の前を流れている光が突然途切れて、唇に柔らかいものが触れた。
視界に入って来た柔らかい毛先が、いたずらな黒猫のしっぽのように、ふわんと舞った。