第80章 進展
「こんなに……食べられるかな」
「ちっこいから大丈夫っスよ」
「確かに、そうだね」
丁寧に淹れられた香り高い紅茶に口を付けてから、テーブルに所狭しと並べられたスイーツを眺める。
お菓子と言うよりも、まるで装飾品のような美しさ。
お皿の上の芸術だ。
不器用で、簡単なケーキひとつ焼くのにも試行錯誤しまくる私には考えられない繊細さ。
ありがたく頂こう……。
涼太の言う通り、ひとつひとつは醤油皿くらいの小さなもの。
どれにしようか迷って、まずはマカロンに手を付ける事にした。
なんていうんだろう、普段マカロンのクリームが挟まっているところに、お花の砂糖菓子が沢山挟まっているの。
海外のハンバーガーみたい、って言ったら涼太にすごく笑われちゃった。
「なんか、食べるのが勿体ないよ……頂きます」
ふわっとした生地に、甘すぎないバニラクリーム。
こんなに華やかなのに、口当たりがとっても優しくて。
なんだか、作ったひとの顔が見えるみたいだ……。
「美味しい……なんか、とっても幸せになる味だね」
口の中から広がる幸福感っていうか、上手く言えないけれど……なんか、すごい。
やっぱり、プロって凄いんだなぁ。
ひとりで適当に食事を済ませていた時代には考えられない。
……というか、今でもひとりだと適当に済ませる事もしばしば……。
「みわのメシもおんなじっスよ」
「え、私の?」
「言ってるじゃないっスか、ホッとするって。なんかほわんとするって」
「うん、忘れたとか、疑ってるとかじゃないんだけれど……」
そう言って貰ったのを勿論忘れたわけではないけれど、まさかこんな凄い食事達と同列になるなんて思いもしなくて。
「幸せ、なんスよ」
囁くようにそう呟いた涼太の横顔があまりに綺麗で、柔らかくて。
いつの頃からかな、涼太が、出逢ったばかりの時のようにどこか諦めたような、寂しげな表情をしなくなったのは。