第80章 進展
「そんなオレに、教えてくれたのはみわなんスよ」
店内には沢山のひとがいたと思うのに、なんだかとっても静かに思える。
普段行くようなお店の喧騒がここにはない。
注文すれば目の前で焼いてくれるシェフも、客の雰囲気を感じ取って、そっと席をはずしてくれている。
私こそ、色々な事を教えて貰っているのにな。
「みわが教えてくれた。大切なヒトってどういうものなのかを。オレにもそんなヒトが出来るんだってことを」
涼太はそっとワイングラスを傾けて、明るい黄金色の液体を口にした。
「今まで色んなコトがあったっスけど……その度に後悔したりしてたんスよ、最初は。もっとああしておけば良かったとかこうしておけば良かったとか」
ちらりと脳裏に浮かんだのは、刺傷事件や強姦事件……きっとあれは、涼太にも大きな傷を刻み付けたはず。
自分を責めて責めて……あんな辛そうな姿、もう絶対にさせたくない。
「でも、悩んでるだけじゃなんにも上手くいかなくて。悩んで悩んで拗らせて出した結果が、結局は的外れだったりさ」
涼太が、責任を感じてバスケを辞めると決めたあの時……彼はどんな気持ちだったんだろう。
彼にとって、他の何にも代えられない大切なものを捨てるって、どうやって決断したんだろう。
……うう、さっきからなんだろうこの気持ち。
ぐっと拳を握っていないと、暴走してしまいそうだ。
「それにみわは、なんていうか……ほっといたらするっとどっかに行っちゃうみたいな、そんな感じがするんスよね。だから、グダグダ悩んでるよりもまず動くべきだって思ったし」
「う、ご、ごめんなさい」
私って、そんなに鉄砲玉みたいな生き方してる……かな?
……してる、のかな。
「みわはさ……全部さ……」
そう言うと、涼太は手の甲を額に当てて、俯いてしまった。
心なしか呂律が怪しい気がする。