第80章 進展
「迷うコトが少なくなったのは……」
ホッとしたのも束の間、涼太がそう話し始めた事に驚いた。
彼にとっても、そんなに踏み込まれたくない領域かもしれないと思ったから、余計に。
彼は人懐っこそうに見えて、存外ひとと距離を取るタイプだ。
どこまで私が聞いていいものか、躊躇っていたんだけれど……。
「みわがいたからっスかねえ」
「……?」
私?
思いもしなかった単語に、酔っていて聞き間違えたんじゃないかと思ったんだけれど、そうではないみたいです。
だって、こっちを見る涼太の瞳が、潤んでるみたいにきらきら光っているから。
「それは、どうして……って、聞いていいの?」
「モチロンっスよ。みわが、全部オレに教えてくれたコトなんスから」
……時々涼太が言う、これ。
私が教えた、って……全く心当たりがないんだけれど、何を? いつ?
「みわはホントに自覚がないんスね。オレはね、正直ウンザリしてたんスよ。口を開けばオシャレだなんだって、頭の軽くて自分のコトばっかりしか考えてない女のコたちに」
おしゃれ……私には縁遠い言葉だ。
センスも経験もなくて、いつも皆に教えて貰うばっかり。
私も自分の事ばかり、考えているんだけれど……。
「いや、別に悪口じゃないんスよ。そういう生き方してるコなんてごまんといるし、オレだってバスケ始めるまでは退屈で退屈で仕方なかったっスからね」
……ああ、他人を否定しないこのひとが、好き。
きっと私とは比べものにならないほどの人間に会って、色んな事があっただろうに。
「でも、デートで行ったお店でオシャレに見える写真撮ってSNSに上げて、それで自我を保ってるようなのばっかりで、なんかもう、なんていうか……諦め? みたいになってたんスよね」
僅かに伏せた瞳に長い睫毛が影を作って、何故だかとても、その姿が寂しそうで……抱きしめたくなった。