第80章 進展
「…………」
レストラン、と言ってみたけれど。
これは、どういう分類なんだろうか。
小さな二人掛けのテーブルに、鉄板がひとつ。
そして、目の前にはシェフがひとり。
涼太は、手渡されたメニューを一瞥して、店員さんに何かを告げた。
任せてくれていいんスよ、って言ってくれてるみたいな雰囲気。
気負わなくていいんだ。
「みわ、どれ食べたいっスか?」
「えっと……」
大層手触りの良い、柔らかい革のような表紙のメニューに手を添えて覗き込むと、美味しそうなお肉の写真がずらり。
「どれが、いいかな?」
暫くあれこれ見て、違和感に気が付いた。
メニューに、金額が載ってない。
上を見ても下を見ても、次のページをめくってみても、書いていない。
そんな事、ある?
「あの……」
「みわ、それはヤボってヤツっスよ」
ウインクしながら人差し指を唇に当てる姿は、まるでテレビCMみたいだ。
うう、何も言い返せない……。
後で、お会計の金額を聞いてこっそり返そう。
他の人がいる所でそういう話をするのは、涼太に恥をかかせてしまうかもしれない。
今は、涼太とお食事を楽しもう……。
「で、どれ食べたいっスか?」
「あっ、どれも、美味しそう……」
「じゃ、これにしよっか」
「うん」
……なんか今一番上の写真だったけれど、とっても高いんじゃないかしら……。
ううん、大丈夫。バイト代はちゃんと貯めてるから、こういう楽しい時間に使いたい。
食前酒として小さなワイングラスの形をしたグラスが運ばれてきた。
薄い黄色の液体は、シャンパンなんだって。
わ、わ、わ、大人みたいだ……!
「みわ、お誕生日おめでと」
その言葉で、ようやく思い出した。
私、20歳になったんだ。
「ありがとう……涼太」
いつもよりも少し低めな声が、乾杯を告げた。
そっと微笑んだ瞳が、泣きたくなるほど嬉しくて。