第80章 進展
「ん……ん」
からかうようにすりすりと唇同士が擦れ合って、気まぐれに重なって、突然深くなる。
涼太のキスに、いつも翻弄される。
まるで密室での情事みたい、なんだけど……
『まもなく~、4番線に……』
「わっ!」
突然の構内アナウンスに、飛び上がらんばかりに驚いた。
唇同士の距離が開いたと思ったら、またあっという間に詰められて。
「りょ、涼太っ、電車が」
「んー、もーちょい」
「だっ、だめ、だってば」
電車がホームに入って来ない内に、最大限の力を以て抵抗した。
涼太は、形の良い唇をツンと尖らせた。
「なんでっスかー、折角変装してきたのに」
とってもご不満そうなんだけれど……
「涼太、涼太が思っているよりも隠せてないから……」
「えー、だってみわは気が付かなかったじゃないスか」
「うっ」
痛い所を突かれてしまった。
でも、元々私は街で男性をじっくりと見るような事はしないし、別に涼太の存在感が薄くて気が付かなかったわけじゃないの……。
涼太は全く自覚がないのかもしれないけれど、彼のオーラは、隠そうと思って隠せるものじゃない。
現に、全く隠しきれていないんだもの。
「あの、もう行こう、ね」
不満げな涼太を引っ張り、なんとか混雑する前に駅のホームから抜け出した。
「……ねえ、あの人カッコ良くない?」
「背高いし顔ちっちゃすぎるよね。もしかして芸能人じゃないの?」
まだ地上に出れてもいないというのに、周りから聞こえるのは涼太に注目する声。
彼は、聞こえているだろうに振り向く事すらしない。
珍しい……やっぱり、オンとオフをしっかり切り替えないと、疲れてしまうよね。
自由に街を歩く事も出来ないなんて、辛すぎる。
涼太が少しでも気晴らし出来るように、協力しなきゃ。
大きな手に導かれて辿り着いたのは、高層ビルの中にある、高級そうなレストランだった。