第80章 進展
あの一件があってから、あきはまたこの家で生活するようになった。
彼と別れると決めたあの日も、絶対に来ちゃダメと言われて近くの喫茶店で待機することになって気が気じゃなかったんだけれど、お店に入って来たあきはびっくりするくらいスッキリした顔をしていて……。
「もうすっぱり別れた。思い残す事はないよ」
そう言ったあきの目の際は赤くなっていたけれど、彼女なりに結論を出して納得できた別れだったんだと思う。
「もう暫く恋愛はいいかな。だからって、あんたが黄瀬とデート行ったりするの遠慮したら承知しないからね」
笑った表情が悲しくも儚げて、綺麗だな……なんて不謹慎にも思ってしまった。
きっと、この恋で得た幸せも悲しみも、消化できるようになるまでは時間がかかるはず。
またいつか、素敵な恋が出来ますように。
「何、着ていこう……」
あれから数日。
頬も、薄くメイクをすれば綺麗に隠れる程度まで回復し、痛みも全くない。
そしていよいよ明日は七夕……私の誕生日。
こんなギリギリに何考えてるんだと言われそうだけれど、着て行く服が決まらなくて。
成人するっていう事に全くピンとも来なくて。
おろおろしながら入ったお店でおすすめして貰ったのは淡いピンクのワンピース。
店員さんの説明によると、女性らしく見えるというコクーンワンピースという種類みたいで……。
品良く見えるヒールの高いパンプスと合わせて購入した。
クロゼットの中は、相変わらず閑散としている。
普段学校や仕事場に着て行く服ばかりだし、それらは動きやすい事を重視して選んでいるから、デートにはちょっと不向きかも……という事でおしゃれの時に着る服も少しずつ買い揃えてはいるんだけれど、まだまだだ。
以前あきのクロゼットを見せて貰った時のショックはまだ覚えている。
彼女は「着やすい」服と「着たい」服と「似合う」服がちゃんと自分で分かっていて、手持ちの服で十分なコーディネートが出来る知識も持ち合わせていて。
いや、女の子なら普通なのかもしれないけれど、そういうテクニックが全くない私は、その日丸1日を使ってあきにファッション講座を開いて貰ったんだ。