第80章 進展

「涼太……？」

「防御……なんで、そー思うんスか……？」

沢山のものを持っている涼太だからこその葛藤もあるだろう。
羨まれる立場だからこそ、傷つくこともきっと、ひとより多いはず。

それに。

「涼太は、繊細だから……」

「繊細？　オレが？」

「うん」

「はは、センパイ達が聞いたら笑うかもしんないっスわ」

……周りの皆だって分かってるよ。
笠松先輩だって以前、言ってたじゃない。

「……私ね、手に入れるよりも手放したり削ったりする方が大変だって思うんだ」

「手に入れる？　手放す？　削る？」

涼太の、この聞き返す時のイントネーション、好き。
頭の上にハテナが飛んでるのが見なくても分かるし、とっても柔らかい声。

「手に入れるのが簡単って言ってるわけじゃないよ。でも、別れたり離れたりするのって、すごくエネルギーがいる事だと思うんだ」

今の私たちに一番説得力のある……あきの一件もあった。

「涼太は、沢山のひとたちから求められる立場だから、取捨選択をしながら生きなきゃいけないんだよね。でも、皆を受け入れて、不要なものは別れて……なんてしていたら、きっとこころが保たない。
別れって、どんなひととでも傷つくものだと思うから」

きっと今まで、沢山の出逢いがあって、沢山の別れがあっただろう。
それこそ、私なんか比べ物にならないほど。

そして、沢山傷ついてきたからこその今の涼太なんだ。
その時の彼の気持ちを想像すると、胸が痛くなる。

「だから、それを予め見極めて選んで生きている涼太は、本当に凄いと思う。冷めてなんかいないよ。涼太は自分に必要な生き方を分かっているんだもん、格好良いよ」

「そう……スか」

「うん」

「……参ったっスわ、オレがみわを元気づけようと思ったのに」

強く腰を引き寄せられて、ふたりの間の距離はいよいよなくなった。
まるでこころの距離を表しているかのようで、嬉しかった。