第80章 進展
「お父さんの事が、好きだった……?」
「そ。例え記憶がなくなったとしても、それは表面的なものなんスよ。心の奥底では、お父さんに対する気持ちって、まだ残ってるハズ。みわがあの……刺された事件の時も、そうだったっしょ」
確かに……あの時はそうだった。
胸になにかつかえてるような感じがして、ずっと気持ち悪くて。
何故か、涼太の事がすごく気になって。
あれも、そういう事だったのかな……。
私がこんなにお父さんにこだわるのは、お父さんが大好きだったから?
「ごめんね……いつまでも気にしてて。ちゃんと調べれば分かることを、今ごちゃごちゃ言ってても仕方ないのに」
涼太の近くにいると、距離とともに遠慮までなくなってしまいそうで怖い。
この大きな胸が全部受け止めてくれるようで、甘えちゃうんだ……。
「オレは気になるコトが悪いとは思わないっスよ」
「え……」
「そうやって、ココロって動かしとかないとすぐに硬くなっちゃうんスよ、きっと。普段から色んなコトで動揺してるみわがオレは好きっスけど」
まさかのブーメランに、ボッと顔が熱くなる。
それを感じ取ったのか、涼太は楽しそうに笑った。
「オレは逆に、そーゆーの冷めてるトコあるからな……」
ぽつりと漏らしたその言葉は、笑い声とは対照的に寂しげで。
確かに、涼太は意外とそういう面がある。
人懐こい性格なのかと思いきや、"認めたひと"と"それ以外"でバッサリと境界線を引いてしまうような冷静な部分が。
でも、それが彼のいいところの内のひとつだ。
「涼太のそれは、短所じゃないよ。ちゃんと自分の中で"選ぶ"事が出来るひとってそうはいないと思うの」
涼太は、常に"選ぶ"事が出来る立場のひとだ。
それだけのものを、このひとは掴み取ってきたから。
……でも。
「でもそれと同時に、自分が傷付かない為の防御策でもあるんだよね、きっと」
ぎゅ、と私を包んでいる腕に力が込められた気がした。