第80章 進展
「みわ、おいで」
「はぁい」
あ、今の私を呼ぶ声、凄く懐かしい感じがした……誰の声、だっけ?
目の前を歩くのは、男性と手を繋いだ小さな女の子。
周りの景色は、高い高い天井に、沢山のソファ。
そして、大きな窓からは何機もの飛行機……あとはぼんやりしてハッキリ見えないけれど、ここ、空港、かな……?
女の子の顔はよく見える。
覚えのある顔……あれは、私だ。
手を繋いでいる男性の顔は、靄がかかってよく見えないけれど、口もとだけはぼんやり見えて……私に、似てる。
「みわ、みわが幸せだとパパもママも幸せなんだよ」
パパ……そうか、このひとは私のお父さんなんだ。
「どうして?」
「んー、なんて言ったら伝わるかな? パパもママも、みわが大好きだからだよ」
「んー……わかんない!」
幼い私はえへへと笑って、お父さんに向かって両手を広げる。
お父さんは、口もとを優しく緩めて私を抱き上げ、そのままひょいと肩車をした。
「みわも、いつか分かる時が来るかもしれないなあ」
「あー! ひこーき!」
飛行機を指差した私は、もはやお父さんの言う事も耳に入らずに興奮状態。
「パーパ! パーパ!」
「うんうん、パパも見てるよ。みわは本当に飛行機が好きだね」
そのままふたりは、楽しそうに喋りながら歩いて行ってしまった。
とても、幸せな光景だった。
視界がゆっくりと広がって行く。
薄暗い、私の部屋……?
目が重たい。
そうだ、頭が物凄く痛かったんだ。
今は……それほど痛くない。薬が効いたのかな。
まだ微熱があるのかな……身体は重くて。
なんだか、凄く幸せな夢を見た……。
悪夢で目を覚ます時とは全く逆の気分。
「みわ、どうスか?」
覗き込んできたのは、長い睫毛が影を作っている、切れ長の瞳。
夢の中のお父さんの言葉で最初に思い浮かんだのは。
「涼太……」
涼太が幸せだと、私も幸せってこと。
彼と居ると、何よりも幸せってこと。