第80章 進展
「みわ!?」
涼太とあきの声が重なる。
意識はハッキリしてる……一体どうしたんだろう。
涼太が駆け寄って来てくれて、私の身体を支えてくれた。
なんだろう、目まいとはちょっと違う……やっぱり、風邪かも。
「あきサン、救急車」
「うん」
えっ!
躊躇いなく涼太から出た言葉に、目を剥いた。
「ま、待って! 大丈夫だから!」
以前涼太が倒れた時の事を思い出す。
全く同じ反応をした彼の気持ちがようやく分かった。
「あの、そういう感じじゃないから大丈夫だと思う」
「そういう感じじゃないって、どういう感じなんスか」
涼太の顔は、真剣そのものだ。
さっきまであんなに温かかった指先が、驚くほど冷たい。
心配させたくないのに、何て言えば納得して貰えるかまで頭が回らなくて。
「本当に、分かるの。自分で分かるから、大丈夫」
「みわは医者じゃないのに、なんで分かるんスか」
うっ。
こういう時の涼太は、本当に鋭いというかなんというか……。
「みわ、吐き気は?」
「ない、ないよ、なんともないよ」
ふるふると左右に振ろうとした首を、両手で押さえられた。
「ねえ、なんかあったらどうすんの」
「だ、だってね、別にどうという事もないと思うよ」
「殴られた衝撃で何が起こるかなんて分かんないだろ」
普段の口調は完全に身を潜めて、漂うのは剣呑な空気。
まずは、皆を安心させるのが第一だ。
「じゃあ、私これから病院に行ってくるから、本当に救急車は呼ばなくて大丈夫」
午後の診察で診て貰おう。
近くの病院、何科があったっけ……
「保険証持ってるっスか」
「あ、うん、バッグに入って……っわ!?」
以前涼太に買って貰ったリュックを背負おうとしたら涼太に奪われ、そのまま彼は私を抱き上げた。
「あきサン、オレ付き添うから今日は帰ってヘイキっスよ。また結果連絡するっスわ」
「ありがと。あたしは大丈夫だからね、マクセさんに送って貰う事にするし」
「ん、リョーカイっス。気を付けて」
すんなりふたりが交わした会話にクエスチョンマークを浮かべる暇もなく、涼太の車に担ぎ込まれてしまった。