第5章 ふたりきり
黒子くんが帰って、部屋に黄瀬くんとふたりきりになった。
……ご実家だからと安心していたけど、ちょっと無防備すぎるかな。
黄瀬くんは、ベッドの上に座ったまま全く寝る気配がない。
「黄瀬くん、寝ていいよ。寝付いたら勝手に帰るから気にしないで」
まだ顔が赤い。
熱が上がってきちゃったのかな。
「違うっつか、ちょっと間違えたんスわ」
「?」
「神崎っちさ、バスケ部のマネージャー、やらないっスか?」
「へ?」
思いもよらぬ質問に、アホみたいな声が出てしまった。
何?
マネージャー?
何の話?
「考えておいて欲しいんスわ。センパイ達も是非って、言ってたんスよ」
「え……」
それは、意外すぎる言葉で。
ただの見学者の私を、先輩方が覚えていてくれたなんて。
嬉しい……。
「ありがとう。私にできることがあるか分からないけど、考えてみるね」
「あと、あのさ……黒子っちのこと、どう思った?」
黒子くん。
今まで会ったどんなひととも違うタイプ。
「うん、すごく素敵なひとだったね。なんか、穏やかな空気の人。でも、内に秘めた何かがありそう」
「そっか……神崎っちは、よくヒトを見てるんスね」
「え、そうかな……? 何の役にも立たないけど、クセみたいなものかも」
「あのさ、みわっち、って呼んでいいスか?」
「な、名前……どうしたの突然? 大丈夫だけど……」
「みわっちは、男嫌いを治して彼氏が欲しいとか、あるんスか」
「そりゃあ……治るものなら、今すぐにでも治したい、かな……」
「じゃあ……オレと、付き合ってみないスか?」
……え?
先程からのあまりに突然の発言に、頭が真っ白になった。
「オレでよければ、みわっちの助けになれればなんて思ってるんスけど」
あまりに非現実的な言葉。
なに?
目の前が霞む。
真っ白だった頭が熱くなる。
止めてたものが、決壊する音。
「みわっち、ごめん。困らせてごめん。泣かないで……」
黄瀬くんにそう言われて気が付いた。
私は、泣いていた。
「ち、違うの、困ってるんじゃないの。……私に、そんな資格なんてないから」
ぽろり、勝手に零れていく言葉。
ずっとずっと辛かった。
誰かに聞いて欲しくて、でも絶対誰にも言えなくて。