第80章 進展
ふと、ある可能性に気が付いた。
「マクセさん申し訳ありません……私、今日何かお約束していました、でしょうか」
必死に考えたけれど、どう頑張っても思い出せない。
何か、お願いしているものはあったっけ?
今日、何かしなければならない事があったっけ?
「いや、何もないよ」
ぐるぐるぐると脳をフル回転させていたけれど、マクセさんは、あっさりとそう言ってお茶をひとくち飲んだ。
……えっと?
じゃあ、どうして……
マクセさんはそれから一言も発さなかった。
何か、聞かれたくない事なんだろうか?
きっと、大人にはそういう事もあるんだろう。
親しい友人という訳でもないから、あれこれ聞くのは良くないのかもしれない。
とりあえず、マクセさんの出方を見る事にした。
……んだけれども、特にその後も言及される事はなくて。
ただ、通りがかっただけ、なのかな……?
そのうちにあきが戻って来て、また4人で少しお話をした。
「みわ、黄瀬、ごめん。あたし、決めたから。もう、別れる。何を言われても彼に戻ることはない」
あきは何度もごめんと言って、でも意志の宿った瞳でそう言い放った。
「そっか……決意、できたんだね」
長い間付き合っていたふたり、決断するにはかなりの覚悟がいったはず。
「うん。みわが殴られんの見て、情で別れられないとかそんな風に考えてたのが、全部吹っ飛んだ」
あきが、本気で怒ってくれているのが分かる。
彼女から迸る空気は、尋常じゃない。
「ちゃんともう一度最後に会って、ちゃんと話して終わる。長く付き合っていたからこそ、ちゃんと最後はキッチリ別れたいから。嫌な思いをさせられたのは事実だけど、最後をちゃんとしないと、あたしまでそれ以下の人間になっちゃう」
あきらしい。
物事に筋を通す、だから皆に信頼されるんだ。
私も、最後までフォローしてあげたい。