第80章 進展
ふたりの周りだけ、時間がゆっくり流れているような気がする……。
涼太の心臓と私の心臓、ふたりの鼓動が同調しているような気がして、凄く落ち着く……。
また、心配をかけてしまった……あれだけ言われていたのに。
私はもっと、危機管理能力を身に付けないとだめなんだ……。
きっと、自分が思っているよりも、もっともっと。
それが大切なひとを苦しめないように、必要な事なんだ。
思わずそう決意するほど、涼太はこころを痛めていた。
どの位の間か、会話もなくただ密着しているうちに、あきとマクセさんがリビングに戻って来た。
「みわ、黄瀬……今日は本当にごめん。ふたりとも、怪我は」
「オレはなんともないから大丈夫っス。みわの顔は……多分コレ、アザになりそうっスわ……」
確かに、頬はジンジンしてあまり感覚が無い。
この感じ……嫌な事を思い出しそうになる。
「大丈夫だよ、暫く冷やせば」
とにかくこれ以上、涼太にもあきにも心配を掛けたくない。
なんとかふたりを説得して──とても納得してくれたとは思えないのだけれど──ちょっと落ち着こうという話にもっていった。
あきが全員分のお茶を淹れてくれて、私達がリビングでひと息ついている間に、彼女は探し物をしに自分の部屋に入って行った。
「涼太、ごめんね……午後の練習は?」
「そんなんいいんスよ、センパイにもちゃんと言ってあるし」
「そんなの、じゃないよ! 大切な練習が」
「みわ」
「う」
「マクセサンは、どしたんスか?」
え?
涼太のその質問の意味が分からないんだけれど……
「ふたりは、一緒に来たんじゃなかったの? だって、階段上って来てたし……」
「いや、なんか12時からエレベーターの点検してるって書いてあって、使えなかったんスよ」
「そうだったんだ」
そう言えば、あきも階段で移動していた。
私はそもそもエレベーターに乗るつもりがなかったから、気が付かなかったんだ。
……あきの彼は、12時よりずっと前に来てたんだって事に気が付いて、背筋がまた寒くなった。