第80章 進展
全員が、口をあんぐりと開けたまま呆けていた。
だって、今、マクセさんが……
「てめえ、何しやがん……」
もはや普段の口調などどこにもない彼がマクセさんに掴みかかろうとして、逆に胸倉を掴まれた。
あまりにマクセさんらしくないその行動に、誰も何も出来ないでいる。
マクセさんがぼそりと何かを言うと、あきの彼の顔色が変わった。
……既に涼太に殴られた顔は腫れあがって、真っ青というよりもちょっと表現出来ないような色合いになってしまっているんだけれど。
あきの彼は、ちらりとあきに目線を送ると、そのまま何も言わずに部屋を出て行った。
マクセさん、何て言ったのだろう?
私の耳にまでは届かなかった……あれだけ激昂していたあきの彼が、あんなにすんなりと立ち去るなんて……。
「神崎」
「は、はいっ」
「塩あるか」
「塩、ですか、あ、あります」
お塩?
使い道が分からぬまま台所からお塩の入ったケースを持ってきて渡すと、マクセさんは悪いなとだけ言ってリビングを出て行ってしまった。
……何が、起きたの?
「あき、あの……」
「本当にごめん、みわ。病院行こう」
差し伸べられた手の平は、白くなってしまっている。
グッと力を込めて拳を握っていた証拠。
こんな状態なのに、私の事を心配するなんて……
「大丈夫、冷やせば腫れも引くと思うし。それより、あきの方が心配……それにマクセさん……大丈夫かな」
「あたし、見てくる」
あきはそう言うと、リビングから出て行ってしまった。
それを見ていた涼太が、椅子から立ち上がってこちらにやってくる。
「みわ、痛みはどうスか」
「あ、本当に大丈夫。少しジンとするだけだから。それより、涼太……ごめんなさい」
懺悔を込めて、両手で涼太の右手を包み込む。
おっきくて、あったかい手。
大事な大事な、手。
それなのに、あんな……。