第80章 進展
「みわも、被害届出して。あたし絶対に許さないから」
あきは口調こそ静かだけれど、その内に秘めている感情が燃え盛っているのが分かる。
どうしよう。被害届なんて考えもしなかった。
なんて返事したら……
「……ふざけるなよ」
迷いの思考を遮ったのは、あきの彼のナイフのように尖った声だった。
「何が被害届だ? 被害者ヅラしやがって。お前みたいなアバズレと付き合ってやった俺の苦労も分からずに好き放題言ってくれたな。発情期の動物みたいに俺の上でアンアン腰振りまくってたくせに、何が許さないだ。俺の事が世界で一番好きなんじゃなかったのかよ。嘘ばっかりでぺらっぺらのうっすいゴミみたいな女だな。お前みたいなヤツと別れられて清々するよ」
一息にそう言った彼の目つきは、もう私の知っているあきの彼じゃない。
あの優しそうな、愛しいものを見るような目じゃない。
思わず耳を塞ぎたくなるような酷い言葉の数々。
本当に、彼はずっとあきと一緒に居た彼なの?
なんで、そんな酷い事が言えるの?
あきは、俯いてしまった。
床に座っている私だから分かる……涙を、堪えてる。
「あのブッサイクなイキ顔、普通の男なら見ただけで萎える。ハメ撮りして見せてやれば良かったな。あんな締まりの悪いガバガバと長年付き合ってやったんだ、こっちが被害届出したいくらいだぜ」
あまりの下劣な言葉に、返す言葉も失った。
酷い。酷い。
なんで、どうしてそんな言葉を投げつけられるの?
あんなに愛し合ってたふたりなのに、どうして?
愛って、なに?
「はん、やってらんねーよ」
彼はそう吐き捨てて立ち上がり、ドアへ向かおうとして……吹っ飛んだ。
何が起きたのか、分からなかった。
私だけじゃなく、涼太も、あきも、あきの彼でさえも。
彼を思い切り殴り飛ばしたのは、マクセさんだった。