第80章 進展
「ずっと……監視してたの?」
そう言うあきの声は、震えていた。
当然だ。だって……私だけじゃない。
アプリを覗いていたという事は、他のひととのやり取りだって、全て覗いていた事になる。
背筋が寒くなった。
まるで覗きをされた時のような不快感。
気持ちが悪いし……何より、その執念が怖い。
あきの全てを把握したいという歪んだ独占欲がそうさせたんだろうか。
そんな事で、相手を自分のものにするなんて出来る訳がないのに。
「あたしが友達とかと話してんの、全部覗いてたんだ」
当のあきは、もっとショックな筈。
まさかそんな事までされているなんて、夢にも思ってなかっただろう。
「なんで……なんで、そんな事するの?」
「じゃああきは、どうして離れようなんて言うんだ」
うなだれたままの彼の声は、抑揚がない。
「お前が離れようなんて、距離を置こうなんて言わなければ」
「……ねえ、あたし達もう別れよう」
しん……水を打ったように静まり返る室内。
あきがずっと踏ん切りをつけられずに彼に言えなかった言葉が、驚く程自然に出た。
彼も、言葉を失って驚愕の表情。
これだけの事をしても、別れを告げられるとは思ってもいなかったみたいだ。
「あたしだけだったら、まだ良かった。でもあんたは今日みわを傷付けた。それだけは、絶対に許さない」
力強く握りしめた拳が震えているのが、分かる。
怖いんだろうか……違う。
怒ってるんだ。
「黄瀬があんたの事殴ってくれて、スッキリしてる。あれは、正当防衛だから。もし黄瀬の事をどうにかしようとか思うなら、あたしも被害届を出すから」
凛とした声に、未練のようなものは感じられない。
あきだって混乱している筈だろうに、もう気持ちは固まっているみたい。
彼は、何も返事を出来ずにいた。