第80章 進展
踏ん張りがきかない……というか、地面がない。
そのまま勢いで階段から転がり落ちたかと思ったけれど、私の身体は誰かに支えられて止まった。
あき、あきは?
クラクラする頭を押さえると、さっきよりも少し状態は良くなったみたい。
じんわりと顎から頬にかけてが痛んで……殴られたんだという事に気が付いた。
「あき……」
あきとあきの彼が、驚いたようにこちらを見ている。
あきの顔が青ざめているのが、ぼかされた視界の中でもはっきりと分かる。
彼は、目を見開いて明らかに慌てている表情だ。
今、彼が狼狽している今がチャンスなのに。
手足が自分のものじゃないみたいに、重くて……。
思い通りにならない身体の全体重を、寄りかかるようにして背後に預けてしまっている。
……あれ?
あきが目の前にいる、っていう事は……私を支えているのは?
さっき遠くの方で聞こえたような声は……誰だった?
「……ちょっと、いいっスか」
え?
「ああ」
聞き慣れたその声。
……涼太……と、マクセさん?
後ろを振り返ろうとしたら、私を支えて居た涼太の手がスッと離れていき、また別の大きな手──きっと、マクセさんだろう──に支えられた。
まさか、と思った時には時すでに遅し。
目の前を、鮮やかな黄色が閃光のような速度で駆け抜け、あきの彼を……殴り飛ばした。
「りょ、涼太っ!」
一瞬で様々な事が脳裏を巡る。
その殆どは花火のようにパッと散っていくだけだったけれど、ひとつだけ……残った。
暴力による、涼太のバスケ人生への影響。
「涼太、だめっ、待って、お願い誰か止めて!」
あきの事とか、あきの彼の事とか山ほど考えなきゃいけない事があるのは分かってるけれど、とにかく叫んだ。
でも、涼太を止めてくれるひとはいなかった。