第80章 進展
「……みわさん、放して下さい」
「そちらこそっ、あきを放してくださいっ!」
やっぱり、私の力じゃビクともしない。
持てる力を振り絞って彼の腕を両手で引こうとしても、なんの効果も得られなかった。
あきが彼に放してと言っても、無言のままズルズルと彼女を引っ張っていく。
あきは必死に抵抗する。
「やだってば! 放して! 帰ってって言ってるじゃん!」
「だめ……っ!」
この状態でふたりきりになんてなったら、何をされるか分からない。
止めないといけないのに、なんて無力。
「放しなさい!」
「あ……っ!」
掴んでいるのとは逆の腕に力強く押し返されて、そのままバランスを崩した私は、壁へ激突した。
背中を強打したせいで、一瞬呼吸が止まる。
「みわ!」
「だ、大丈夫……!」
驚いたけれど、特にダメージがあるわけではない。
再び、彼へ飛びかかるようにして腕と肩を掴んだら、その勢いに負けて、彼の手があきから離れた。
「あき、行って!」
「でも、っ」
「いいからっ」
「あき、待ちなさい。お前にはお仕置きが必要なんだから」
彼はもはや、怒りを隠すのをやめていた。
怒気を含んだ眼光と声が、突き刺さるようだ。
危険だと、脳みそが告げてる。
「あき早くっ」
「……っ」
あきは、決めかねているように後ずさりをする。
早く、行って。
「この……っ、放せ、バカ女!」
「っ……!」
一瞬、視界がパッと明るくなって、目玉がぐるっと一回転したような衝撃。
彼の肩や腕を掴んでいた筈なのに、今は何の感覚も無く、振った腕は空を切って……気が付いた時にはバランスを崩していて、身体が傾いていた。
「みわ!」
あきの声が、なんだか遠くに聞こえる。
何故か視界がぼやけて、目の前の景色が認識出来なくなった。
何が起きたの?
すぐ後ろには階段があった筈。
視界が真っ白になったまま、たたらを踏んで……フッと、足元の地面の感覚が消失した。
「みわ!」