第26章 オンナノコ
「みわっち、今日部活ないけど、この後何か予定あるっスか?」
黄瀬くんが帰り支度をしながら、無邪気な笑顔でそう尋ねてくる。
「あ、ごめんね今日は……桃井さんとお茶する約束してて」
「桃っちと? 珍しいっスね」
「うん、なんかパンケーキ屋に行かないかって誘って貰ったんだ」
「そうなんスね。たまにはオレも黒子っちに声かけてみよっかな」
スマートフォンを取り出して、ささっとメールを打つ指の動きの速さに驚いた。
「ごめんね。言ってなくて」
「いいんスよ。楽しんできてね」
黄瀬くんと別れ、急いで東京方面へ向かう電車に乗り込む。
待ち合わせは原宿。
実は、今まで一度も行ったことがない。
電車を降りると、一体どこから湧き出ているのかと思うくらいの人で溢れていた。
「みわちゃん!」
改札を出ると、一際目立つ桃色の髪。
整った顔立ちに抜群のスタイル。
満面の笑みでこちらに手を振っている美女がいた。桐皇学園の桃井さん。
「あ、桃井さん久しぶり……! 今日は誘ってくれて、ありがとう」
「さつきでいいよ! 早速お店に向かってもいい?」
「うん……後ね、後で時間があったらお願いしたいことがあるんだ」
「いいよ、じゃあゆっくり話聞くね!」
翻ったスカートから覗く足が眩しい。
2人で、原宿の雑踏を歩き出す。
テレビでよく見るお店や街並み。
「表参道って、ここの事を言うんだね」
「みわちゃんは、こっちの方あんまり来ないんだ?」
「恥ずかしながら、今日が初めて」
「今度はきーちゃんに連れてきて貰うといいんじゃない!」
確かに、このオシャレな街は彼によく似合う。
桃井さんに導かれるまま人混みを抜け、こぢんまりとしたカフェに辿り着いた。
「あ、ラッキー! 並ばずに入れそう!」
テレビでも、この辺りのスイーツのお店は数時間待ち、というのをよく見かける。
すぐに店員さんが顔を出し店内へ案内され、2人であれやこれや言いながら、パンケーキを注文した。
「みわちゃん、最後に会ったのは8月の頭だったよね。なんか、すごく……キレイになったね」
「えっ?」
「きーちゃんのおかげなのかなあ。みわちゃん、愛されてるもんね」
真っ直ぐそう言う桃井さん。
なんだかものすごく恥ずかしくなってきた。