第80章 進展
ひとは、驚きすぎると声も出ない。
絶対に見つからないようにと気を張り詰めていた状態でいきなり手首を掴まれて、予想外の事態に脳みそは一気に大混乱。
「こんにちは、みわさん」
にっこりと微笑んだあきの彼が、私を掴んでいる。
「ど、うしてここに」
挨拶を返すのも忘れて、今頭にある疑問を投げかけても、彼の表情に動きは見られない。
え、どうして? なんで?
だって、ここはオートロックだもの。
鍵がないと、入れるわけがないのに。
「あきが帰るまで、待っていたんですよ」
じゃあ、どうして階段の陰に隠れるようなかたちで待っていたの?
この間みたいに、マンションの外で待っていればいい話なのに。
……逃げ場をなくそうとして、ここまで来たんだ。
あき、メッセージ既読になってた……ちゃんと帰った、よね?
「あの、今日あきはここには帰って来ないです」
「最近、あきが何処で寝泊まりをしているのか、教えて貰えますか?」
気付かれてる。
あきが今ここで生活していない事。
「あの、私の口からはお答え出来ません」
「……どうしたら教えて貰えますか?」
「申し訳ありません、お答え出来ません」
ここから離れよう。
と思っても、掴まれた手首が解放される気配はない。
「みわさん」
「放して、ください!」
なんだか、ついこの間もこんなシチュエーションになった気がする。
とにかく今はここから逃げて、後であきと合流……
「……みわ!?」
背後から聞こえた声に、また驚いた。
階段を上ってきたのは……
「あき」
そう、あきだ。
どうして? なんで来ちゃったの?
彼は満面の笑みだ。
でも、手は放してくれない。
「あき、どうして……!」
「何、なんでここにいんの?」
あきはメッセージを読んだ筈なのに、まるで何も知らないかのような驚愕の表情。
何が、起きてるの。