第80章 進展
電話を切ってから、なんとなく部屋の窓を開けた。
今日は夕方からだいぶ気温が下がったから、気持ちいいかなって。
予想通り、頬を叩いた夜風は少し冷えていて、心地良い。
雲がなくて、綺麗に月が見える。
涼太、何してるかな。
同じお月さま、見てるかな。
……いやいや、忙しい彼が見れているわけ、ないか。
背後にスマートフォンの振動を感じ、視線を送る。
あきからのメッセージだった。
"ごめん、さっきの電話で言い忘れた!
ちょっと部屋に取りに行きたい物があってさ、
明日行こうと思うんだけど"
そっか……急な話だったから、あきは最低限生活に必要な物しか持って行ってない。
でも、ここに来るのは危ないんじゃないかな……。
"そうなの?
もし私で分かる物なら、持って行くよ!
それか、郵送でも大丈夫だし。
ここに来るのはあんまり良くないんじゃないかな?"
"うーん、やっぱそうだよね……
実はどこにしまったか忘れちゃって
なんとも言えないんだわ。
すぐ必要になっちゃってさ……
明日昼過ぎにちょっとだけ戻る。
長居しないようにするわ"
うう……すぐ必要な物なら郵送なんかも出来ないよね……。
短時間、私も一緒なら安心かな。
"うん、分かった。
私も午前の講義終わったら
一度家に戻るんだ。
探すの手伝うね"
"サンキュー、助かる~
ホントごめん!"
それから、少しだけ表情のついたスタンプでのやり取りをして、その日の連絡は終えた。
彼の姿を見かける事はないし、安心だとは思うんだけれど……
なんだろう、なんとなく不安な気持ちがあって。
明日は早めに帰って来よう。
もう一度空を見上げたら、お月さまはいつの間にか現れた雲の向こう側に隠れてしまっていた。