第79章 邂逅
「オマエこの間、神崎が浮気するなんて思ってもないって言ってたじゃねえか」
「いや、違うんスよ、浮気とかじゃないんス……」
なんだろう。
一番近い表現……そう、水、みたいな。
透き通ってて、冷たくもあったかくもなって、手に入ったと思ったらするりと抜けていってしまって……なんか、水みたいなんだ。
しっとりと濡れている間は落ち着くのに、気が付いたら乾いてしまってる……みたいな感じ?
そんなしょーもない不安に駆られる。
離れていると余計に。
「そんな風になるんなら、もう結婚したらどうなんだよ。今時学生結婚なんて珍しくないだろ」
「それもしょっちゅう考えるんスけど……やっぱりそれはまだちゃんと自立してから、親の力を借りずにひとりで生きていけるようになってからけじめとして」
……これは本心。
結婚……今まで自分のコトだけ考えてきたけど、そうはいかなくなる。
ホイホイと結婚しよう、なんて軽々しく言えなくて。
彼女がせっかく前を向けたんだ、夢を追っているそれを邪魔したくなくて。
「自立してからって、卒業してからって事か?」
「そうっスね……一応そう考えてはいるんスけど」
「ふーん……ま、オマエがそう決めてるっつーんならもうこれ以上どうこうは言わねえけどよ、物事にはタイミングってモンがあるんじゃねえの」
「タイミング、っスか?」
「おう。卒業したら、とか仕事始めたら、とか色々考えたりはするだろうけどよ、そうそう思い通りにはなんねえだろって」
「そう……っスかね?」
「予想外の事ばっかりなのが人生なんじゃねえの」
確かに、人生は予想外のコトばっかりだ。
全部、偶然だったのか必然だったのか。
あの時、青峰っちのボールがオレの所に来なかったら。
オレが、海常に入らなかったら。
strkyがストバスの大会で優勝しなかったら。
……みわと同じ電車に乗ってなかったら。