第79章 邂逅
「聞いた方がラクになんなら聞く。そうじゃねえなら今日は帰るわ。悪かったな、遅くまで」
センパイのこの絶妙なカンジは、天性のものなんだろうか。
押しすぎず、引きすぎもしない。
皆がこのヒトを慕うワケが分かる……つい頼りにしてしまうってゆーか。
「あの、言えないとか言いたくないとかじゃないんス。ちょっと、自分でもどうにもできないからなんて言ったらいいかっつーかなんというか……」
「自分じゃどうにも出来ない?」
「……笑わないっスか」
「笑わねえよ」
質問内容すらまだ聞いていないのにそう断言するセンパイ。
「……オレ、神崎みわが好きなんスよ」
「オマエの周りにいる人間なら、まず間違いなく知ってるよ。今更どうした」
「はは……そうっスよね。上手く言えないんスけど、マジで大切すぎて……壊したくなるんスわ」
「あ?」
センパイは、気持ちいいくらい眉を顰めた。
これ、普通の反応だよな。
「お前何言ってんだって思われると思うんスけど、本当に……時々すげー歯止めが効かなくなるっていうか……」
「大切にしてえのに壊してどうすんだよ」
「いやホントそのツッコミはごもっともなんスけど……スンマセンおかしなコト言って」
「茶化してるわけじゃねえよ。なんでそう思うのかって聞いてんだ」
「なんでそう思うのか……」
なんで、そう思うのか。
それは、自分の中の中のもっと奥底にある、汚い汚い欲望。
「壊しちゃえばね、もうオレんとこ以外にはいかないって思うんスよ」
壊して、オレなしじゃ生きられないようにして。
鳥籠に閉じ込める、なんて表現すら生ぬるいくらいに、縛りたい。
「絶対に欲しくて、いつかはこの手の中からこぼれ落ちてくのが怖くて、嫌われるのが怖くて……自分で自分が情けなくなるんスけどね、もう壊さないと手に入らない気がして」
センパイの口からはあ、と大きなため息が出て、代わりにバウムクーヘンをぽいと放り込んだ。
「……歪んでんなあ。まあ、なんかオマエらしいけどな」
オレもつられてバウムをひとくち。
何故だかさっきよりも少し甘く感じた。