第79章 邂逅
「ふぁー、食ったっスー!」
店外に出ると、むわっとした湿気が襲い掛かってきた。
それでも昼間よりはだいぶマシだ。
あー、こうしてるうちにまた夏が来る。
さっきあれだけ飲んだくせに、もう喉が渇いてくる気がするから不思議なもんで。
「黄瀬、ちょっといいか」
最後に居酒屋から出て来た笠松センパイは、少し赤い顔で親指を肩の高さまで振り上げた。
「へ、今からっスか?」
「おう、ちょっとだけ」
センパイの親指が指した先には、国内チェーンのカフェ。
こんな時間なのに、遠目でもほぼ満席に見える。
珍しい。
無駄話を好むタイプではないセンパイの誘いだ、きっとなんか大事な話なんだろう。
いいっスよ、そう返事をしようとして、冷蔵庫の中のアレを思い出した。
「あ、センパイ、どこでもいいならウチ来ないっスか?」
玄関のドアを開けると広がるのは、漆黒の空間。
暗い家に帰って来るのにも、すっかり慣れてしまった。
みわと暮らした数ヶ月の間は、幸せだったな。
「わりいな、こんな時間に」
「よく皆で朝まで飲んでるじゃないスか」
確かにな、と笑い飛ばすセンパイはいつも通りだ。
冷蔵庫からチアキサンに貰った菓子らしきものの袋を取り出す。
ビニールの中に入ってた小さな紙が目についた。
なんか英語で書いてある。店のカードだろうか?
……なんて書いてあるのか……うーん、知らない単語。
きっとおめでとうって感じだろう。大した興味もないし、丸めてゴミ箱に放った。
「貰いもんで申し訳ないんスけど」
「うまそ」
箱の中身はバウムクーヘンだった。
バウムクーヘンって、そんなに違いないだろなんて思ってたけど、これはふわっふわですげー美味い。
センパイも、うめえなこれって言いながらさっさとたいらげて。
女のコがスイーツは別腹、って言うのがなんか分かったかも。
「で、センパイどうしたんスか?」
でも、センパイから返って来たのは、想像したどれとも違ってて。
「どうした、はこっちのセリフだよ」