第79章 邂逅
「みわ、水飲むっスか」
「ううん……へい、き」
掠れ切った声に、1ミリも動かない身体。
でも、私を包むのは倦怠感よりもずっと大きな……幸福感。
腕枕はだめだと言っているのに、少しだけだからと聞いてくれなくて。
それに甘えてしまっている私も、よくないんだけれど……。
「みわ、今からこんなんで恥ずかしがっててどーするんスか? もっと色んな事しようって言うのに」
その一言で、ちょっと目が覚めた。
そうだ……よりにもよって、え、え、えすえ、むとか……
大丈夫かな。出来るかな、私に。
「あの……ちゃんと、練習しておくね。ムチ、とか」
「え」
呆れられないように、ちゃんと練習しよう。
そう思って伝えたのに、涼太は綺麗な目をころんと丸くした。
恥ずかしいけれど、なんでも出来るって言ったのは私。
出来る限りの事を、しよう。
「あの、なんか、仮面をしたり、凄い服も着なきゃ、いけないんだよね。黒くて、ちょっとハイレグみたいな……」
「待って、なんでみわがS側になってんスか! 逆でしょ、逆!」
「えっ! わ、私ムチで叩かれる趣味はないんだけれど……!」
「オレだってないってば! てかそれハードSMだから! オレが言ってんのはムチとかないから! もっとソフトなやつだから!」
「えっ!」
……ハード、SM?
ムチとか、蝋燭とか……そういうのじゃ、なくて?
そこまで言って、涼太はひっくり返って笑い出した。
ようやく、私が盛大に間違えていた事を認識して……もう、どこかに埋まりたい。
「ぷ……いや、みわになら、叩かれても……いいんス、けどね」
「涼太! もう忘れて! 忘れて!」
「女王様なみわにイジめられんの、たまんないかもしんないっスわ」
「わ、忘れてってばー!」
涼太は暫くの間、ずーっと笑ってた。