第79章 邂逅
「写真撮っていいスか?」
「うん、ちょっと不格好で恥ずかしいな……」
「全然! めっちゃキレイっスわ」
涼太はスマートフォンを片手に、真剣にタルトを撮影している。
右から左から、上から、ちょっと下から……まるで、尻尾を振っているわんこのような動きだ。
このひと本当に、どれだけの姿を持っているんだろう。
「お待たせ! 食べたいっス!」
少年のようにキラキラと目を輝かせる涼太の前で、ケーキ用のナイフで切れ目を入れていく。
出来るだけ、フルーツが全種類入るように……うう、見られてると緊張する……。
「はい、どうぞ召し上がれ」
「めっちゃ美味そうっスね! いただきまーす」
長い指先が器用に扱うフォーク……全然違うところに目を奪われてしまう。
バスケしている時と、おんなじ手……なのに。
手入れされた指先から魔法がかけられたかのように、そのフォークに刺さったケーキはさっきよりもずっと美味しそう。
目線を上げると、ゴクンとケーキを飲みこんだ涼太と目が合った。
「みわ……これ……」
え、え、不味かった!?
試作の段階では、そんなに悪く……なかったんだけど……工程にミスがなかったか、急いで思い起こす。
涼太は俯いて、次の言葉を紡ぎかねているように見える……けれど。
「店で売ってんのより美味いんスけど!!」
「……へ?」
「なにこれ、下のクリームどうなってんスか? なんでこんなに美味いの? あ、チーズの層もある」
「え、あの、クリームはただのカスタードクリームだよ……」
まるで極上の料理を口にしたかのような褒めように、顔が段々熱くなる。
嬉しい、嬉しいんだけれど、とっても恥ずかしい。
よく見ればアラばっかりだし、クリームちょっと乗ってない所があるし、タルト生地がちょっと凹んでる所があるし、バランスを間違えてオレンジばっかり乗ってるエリアがあるし……。
……でも。
涼太の喜んだ顔……嬉しくて、嬉しくて。
次は、もっともっと美味しく作れるように、頑張るね。